「記者になりたい!」(池上彰)

そうだったのか!池上彰

「記者になりたい!」(池上彰)
 新潮文庫

「そうだったのか!池上彰」と
改題した方がいいような、
素敵な一冊です。
「NHK週刊こどもニュース」、
子どもが小さい頃、
一緒に見ていました。
その初代お父さん役の著者が、
32年間のNHK職員時代を振り返って
綴った一冊です。

読みどころの一つは、
昭和50年代のさまざまなニュースとの
関わりの中で、報道人・池上彰が
描かれているということなのです。

昭和55年「新宿バス放火事件」、
昭和57年「羽田空港逆噴射事件」、
昭和60年「日航機墜落事故」、
昭和63年「なだしお衝突事件」など、
当時の世間に衝撃を与えた諸事件と、
記者としての著者の関わり、
そしてそれらに対する
著者の見方考え方が並んでいます。

これだけでも、「当時TVを
通して見た報道の舞台裏には
こんなドラマがあったのか」と、
興味深く読み進められました。

読みどころのもう一つは、
記者16年、キャスター16年の半生を
前向きに取り組んできた
職業人・池上彰が
描かれているということです。

その経歴を見ると、
同じNHK内での異動でありながら、
仕事内容は多岐にわたっています。
①研修員
②松江放送局(県庁所在地地方記者)
③呉通信部(地方記者)
④警視庁担当記者(以下東京)
⑤災害担当記者
⑥教育担当記者
⑦ニュースキャスター
⑧週刊こどもニュース「お父さん」役。
もちろん①~⑥は同じ記者なのですが、
仕事の中身はかなり異なっています。

勉強になったのは、そうした異動を、
著者自身が考え、自ら希望して
実現させたということなのです。
ほとんどの職員が首都圏での仕事を
希望する際に、あえて地方を希望し、
松江へ転任します。
そしてあえてさらに小さな通信部へ。
時期をねらって東京へと戻ります。
すべて自分の仕事に明確なビジョンを
持っていたからこそ
できたことなのでしょう。

また、
「わかりやすく伝える」ということを
徹底して突き詰めていく姿勢も
学ぶところが多々ありました。
週刊こどもニュース制作の様子は
「わかりやすく伝える」ことの大変さが、
読み手に実に「わかりやすく」
伝わってきます。

報道人そして職業人としての
池上彰の生き方が読み取れる一冊です。
ぜひ、進路を考えはじめる
中学校2年生に薦めたいと思います。

※最近思うのは、
 「子ども向け」が大人には
 ちょうどいいのではないかと
 いうことです。
 「週刊こどもニュース」といい、
 「岩波ジュニア新書」といい、
 子ども向けのものほど
 得てして大人も十分楽しめる
 内容になっているのです。
 「子ども向け」ではなく
 「子どもから大人まで向け」と
 捉えるべきなのでしょう。
 それにつけても
 「週刊こどもニュース」が
 2010年で終了したのは残念です。
 何でも視聴者層が
 子どもよりお年寄りが
 多かったからだとか。
 いいじゃないですか、誰が観ても。

(2020.4.20)

kalhhによるPixabayからの画像

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